業務フローの整理は、専用のツールも難しい記号もいりません。エクセルかスプレッドシート1枚に、誰が・何を・どの順番でやっているかを並べるだけで始められます。

システムの比較表を見る前に、この1枚を作ってください。何を入れるべきか、そもそも入れる必要があるのかが、先に見えてきます。

  • 業務フローはどこまで細かく書けばよいのか
  • 誰に話を聞けばよいのか
  • 整理したあと、何を見ればよいのか
  • システムを入れるかどうかは、どこで判断するのか

私は食品メーカーの製造部門で、現場の業務をデジタル化する仕事をしています。工場の承認業務をシステムに置き換えたとき、最初にやったのが業務の流れの書き出しでした。そのときの手順と、途中でつまずいた点をまとめます。

業務フローを1枚にする手順

先に全体像を示します。

手順 やること 目安
1. 対象を1つに絞る 「発注」「日報」など業務を1つだけ選ぶ 最初は1業務
2. 列を決める 順番・担当者・作業・使う物・かかる時間・困りごと 6列で足りる
3. やっている人に聞く 管理する人ではなく、手を動かしている人 1人30分〜1時間
4. 1行ずつ並べる 1行に1つの作業。判断が入る所は行を分ける 20〜40行程度
5. 困りごとに印をつける 本人が面倒だと言った行を塗る ここが改善の候補

手順1: 対象は1つの業務に絞る

工場全体の流れを一度に書こうとすると、まず終わりません。

「発注」「作業日報」「設備の点検記録」のように、毎日か毎週、繰り返している業務を1つだけ選びます。繰り返しの多い業務ほど、整理した効果がはっきり出ます。

手順2: 列は6つで足りる

図の書き方を覚える必要はありません。表で十分です。発注の業務なら、たとえば次のようになります(架空の例です)。

順番 担当者 作業 使う物 かかる時間 困りごと
1 現場リーダー 必要な資材を確認する 在庫表(紙) 15分 在庫表が最新か分からない
2 現場リーダー 発注の依頼を書く 依頼書(エクセル) 10分 書式が人によって違う
3 課長 内容を確認して承認する 押印 数日 不在だと止まる

「使う物」の列が大事です。紙なのか、エクセルなのか、口頭なのか。ここを書くと、情報がどこで途切れているかが見えます。

手順3: 話を聞くのは、手を動かしている人

業務の流れを一番知っているのは、管理している人ではなく、毎日その作業をしている人です。

管理する側が思っている流れと、現場で実際に回っている流れは、たいてい少しずれています。決まりにはないけれど、現場で習慣になっている手順があるからです。

聞くときは「どうあるべきか」ではなく「昨日はどうやったか」を聞くと、実際の流れが出てきます。

手順4: 判断が入る所は、行を分ける

「確認する」「承認する」「OKかどうか決める」のように、人が判断する作業は、ほかの作業と行を分けておきます。

判断の行は、あとでシステムにするときに扱いが変わります。記録や転記は機械に任せやすい。一方で判断は、その人が責任を持っているので、置き換えにくい部分です。

手順5: 本人が面倒だと言った行に印をつける

最後に、話を聞いた本人が「ここが面倒」と言った行を塗ります。

改善の候補は、この塗った行だけです。

合計の時間が大きくても、やっている本人が困っていない作業から手をつけると、新しいやり方は定着しません。この点は食品工場のDXが現場に定着しない5つの理由でも詳しく書いています。

整理したあとに見る3つのこと

1枚ができたら、次の3つを見ます。

  1. 止まっている所はどこか:承認待ち、担当者の不在など
  2. 同じ情報を何度も書いている所はどこか:紙からエクセルへの転記など
  3. その作業で手が空くのは誰か:変えたときに楽になる人と、手間が増える人

3つ目が一致していないなら、システムを入れても使われません。先に業務の流れのほうを変えたほうが早いです。

変えるときは、小さい順に試す

困りごとが見えても、いきなりシステムを探す必要はありません。お金も手間もかからない順に試すと、多くはシステムの手前で片づきます。

順番 変えるもの 例
1 決まりごと 課長が不在のときは係長が承認してよいことにする
2 書式 依頼書の書き方を1つにそろえる
3 置き場所 最新の在庫表を置くフォルダを1か所に決める
4 表計算・フォーム 紙の記録を、みんなが見られる共有の表に置き換える
5 システム・アプリ ここまでで解決しない所だけ

1〜3は、道具を何も買わずに明日から変えられます。4も、エクセルやGoogleのスプレッドシート、フォームのように、すでに使える道具で足りることがほとんどです。

5に進むのは、1〜4で片づかなかった所だけで十分です。

実際に整理してみて分かったこと

承認業務をシステムにしたとき、1つの工場で運用が回るところまで持っていき、ほかの工場への展開は別のチームに引き継ぎました。

その過程で分かったのは、一番よい仕組みが、一番よい選択とは限らないということです。

仕組みを根本から変える方法はほかにもありました。それでも、工場のメンバーが中身を理解できて、あとから別のチームに引き継げる形を選びました。作った人がいなくなっても回ることを優先したためです。

業務フローを1枚にしておくと、この判断もしやすくなります。どこまで変えるかを、関係する人と同じ紙を見ながら話せるからです。

よくある質問

業務フローはどこまで細かく書けばよいですか?

1行に1つの作業、全体で20〜40行が目安です。細かすぎると誰も読まなくなり、粗すぎると困りごとが見えません。迷ったら、担当者が変わる所と、使う物が変わる所で行を分けてください。

専用のツールを使ったほうがよいですか?

最初はエクセルかスプレッドシートで十分です。現場の人がそのまま読めて、書き足せることのほうが大事です。図にするのは、関係者で中身が固まってからで間に合います。

誰がまとめるのがよいですか?

現場と管理する側の両方に話を聞ける人が向いています。どちらか一方の立場の人がまとめると、もう一方の実態が抜けやすくなります。

整理したら、すぐシステムを入れるべきですか?

整理した結果、システムがいらないと分かることもあります。書式をそろえる、承認の代わりを決めておく、といった運用の変更だけで解決する困りごとも多いためです。