「製造業DX」という言葉が広まって久しいですが、実際に食品工場の中でDXを担っているのはどんな人か。答えは意外かもしれません。ITエンジニアではなく、現場を知る社員がDXの主役になっているケースが非常に多いのです。
私は食品メーカーの製造部門出身で、現在は製造DXとSCM関連の業務を担当しています。現場業務から始めて、業務改善プロジェクトで月数十時間規模の工数削減を実現するまでの経験をもとに、「現場からDX人材になる」現実的な道筋を解説します。
食品工場のDXの実態: 華やかな話はほとんどない
DXと聞くとAIやロボットを想像するかもしれませんが、食品工場のDXの実態は地味です。
- 紙の帳票・日報・衛生記録をデジタル化する
- Excelに手入力していた実績データを自動で集計する
- 設備データを取得して見える化する(IoT・MESの導入)
- 生産計画・在庫情報の連携を改善する(SCM領域。賞味期限がある食品は特に効果が大きい)
- ダブり業務・転記業務をなくす
食品業界は他業界に比べて紙文化・手書き記録が根強く残っています。裏を返せば、改善の余地が最も大きい業界の一つだということです。
つまり、「現場の面倒くさい」を一つずつ潰していく仕事です。だからこそ、現場の面倒くささを肌で知っている人が強いのです。
実体験: 月数十時間の工数削減はどう生まれたか
私が関わった業務改善で最も効果が大きかったのは、手作業の記録・転記・集計業務の自動化でした。ポイントは技術ではありません。
- 「誰が・何に・どれだけ時間を使っているか」を先に測った — 改善対象の選定が成果の8割を決めます
- 現場が抵抗しない形にした — 入力の手間が増える仕組みは必ず形骸化します。現場出身だからこそ「これは続かない」が事前に分かる
- ツールは背伸びしなかった — 高度な基盤より、確実に動いて誰でも直せる仕組みを優先
結果として月数十時間規模の工数削減になりましたが、使った技術は特別なものではありません。価値の源泉は「現場の業務を分解できること」でした。
現場からDX人材になる3ステップ
ステップ1: 今の職場のデータ業務を拾う(0〜6ヶ月)
- 日報・実績の集計を効率化してみる(Excel関数→ピボット→Power Query の順で十分)
- 「この転記、無駄ですよね」を口に出し、自分で直してみる
- 小さくても「改善した実績」を作る。これが次の全てのステップの元手になります
ステップ2: 武器を1つ決めて深める(6ヶ月〜1年)
全部やろうとしないことが重要です。現場出身者と相性がいい順に挙げます。
| 武器 | 学ぶもの | 相性がいい人 |
|---|---|---|
| データ集計・可視化 | Excel Power Query、BIツール | 日報・実績管理をしてきた人 |
| 業務自動化 | Power Automate、簡単なスクリプト | 転記・定型業務が多い職場の人 |
| 設備データ活用 | PLC・センサーの基礎、MESの概念 | 保全・設備担当の人 |
| SCM・生産管理系 | 生産計画・在庫理論、ERPの概念 | 生産管理に近い人 |
ステップ3: 実績を「語れる形」にして異動・転職する(1年〜)
- 改善実績を「対象業務・打ち手・削減効果(時間・金額)」の形で記録しておく
- 社内にDX推進部門があれば異動希望を出す。「現場が分かるDX人材」は社内で取り合いになっています
- 転職するなら「製造業×DX推進」「スマートファクトリー推進」の求人へ。食品工場の現場経験×デジタルの組み合わせは希少で、年収レンジも製造職より一段高いのが実情です
注意点: 「ツールを覚えること」を目的にしない
DX人材への最短距離は、プログラミングスクールではありません。食品工場のDXで評価されるのは次の順です。
- 業務を分解して無駄を特定できる
- 現場が続けられる仕組みを設計できる
- ツールで実装できる
3だけできる人は社外からいくらでも調達できます。1と2は現場にいた人にしかできません。あなたの現場経験は、これから学ぶどのツールよりも価値があります。
まとめ
- 食品工場のDXの実態は「現場の面倒くさいの解消」であり、現場経験者が主役になれる
- 成果の源泉は技術力ではなく、業務を分解し、現場が続けられる形を設計する力
- ステップは「小さな改善実績→武器を1つ深める→語れる形にして異動・転職」
- 現場×デジタルの人材は希少で、キャリアの選択肢と年収レンジが広がる
現場からのキャリアアップ先として、DXは生産技術・品質保証より新しい分、競争が少ない領域です。