工場の業務システムを内製するかどうかは、作れるかどうかでは決まりません。作った人がいなくなったあとも回るかどうかで決めるのが、いちばん失敗しにくいと考えています。
ローコードの道具が広がり、工場の人でも業務アプリを作れるようになりました。一方で、作ったものが担当者の異動とともに止まる話もよく聞きます。
- 工場のシステムは、自分たちで作ってよいのか
- ローコードは何に向いていて、何に向いていないのか
- 作る前に決めておくべきことは何か
- 情報システム部門とはどう関わればよいのか
私は食品メーカーの製造部門で、現場の業務をデジタル化する仕事をしています。工場の承認業務を、Microsoftのローコードの道具(Power AppsとPower Automate)で自分たちで作り、運用が回るところまで持っていってから別のチームに引き継ぎました。そのときに何を基準に選んだかを書きます。
その前に:作らずに済まないか
内製か外注かを考える前に、確かめてほしいことがあります。そもそも、作らなくても済まないかです。
承認者の代理を決める、書式をそろえる、最新の表の置き場所を1か所に決める。こうした決まりごとの変更だけで片づく困りごとは少なくありません。共有の表計算やフォームで足りることもよくあります。
小さい順の試し方は、食品工場の業務フローの整理のしかたにまとめています。この記事は、それでも仕組みが必要になったときの判断基準です。
内製か外注か、判断の早見表
| 見るところ | 内製に向く | 外注に向く |
|---|---|---|
| 業務の変わりやすさ | よく変わる。現場で直したい | 一度決めたらあまり変わらない |
| 扱う情報 | 社内で完結する | 取引先や外部システムとつなぐ |
| 止まったときの影響 | 手作業に戻せば回る | 止まると出荷や品質に響く |
| 作ったあとの持ち主 | 社内に引き継ぐ先がある | 社内に引き継ぐ先がない |
| 求める完成度 | 7割で動けばよい | 最初から作り込みたい |
一番大事なのは「作ったあとの持ち主」の行です。ここが決まらないなら、内製は避けたほうが安全です。
ローコードが向いている仕事
ローコードの道具は、次のような業務に向いています。
- 紙やエクセルで回している申請・承認
- 決まった書式の記録を集めて、一覧にする作業
- 担当者への通知や、期限の催促
どれも「決まった流れを、決まった順番で回す」仕事です。現場の人が中身を読めて、少しの変更なら自分たちで直せるのが強みです。
一方で、複雑な計算や、大量のデータの処理、外部の取引先とつなぐような仕組みには向きません。そこは専門の会社に頼んだほうが確実です。
私がローコードを選んだ理由
正直に言うと、仕組みを根本から変える方法はほかにもありました。技術的にはもっと楽に作れる方法もありました。
それでもローコードにしたのは、次の3つを満たしたかったからです。
- 工場のメンバーが、ぎりぎり中身を理解できる
- 自分がいなくなっても、別のチームに引き継げる
- 限られた人数と時間で、実際に作り切れる
一番よい仕組みではなく、この工場で回り続ける仕組みを選びました。結果として、1つの工場で運用が定着し、ほかの工場への展開は別のチームに引き継いでいます。
作る前に決めておくこと
内製すると決めたら、作り始める前に次の4つを決めておきます。
| 決めること | 理由 |
|---|---|
| 誰が持ち主になるか | 作った人の異動で止まるのを防ぐ |
| どこまでを作るか | 7割で動かし、残りは使いながら直す |
| 止まったときの手順 | 手作業に戻す方法を決めておく |
| 情報システム部門にいつ相談するか | 後から止められるのを防ぐ |
特に最後の点は、あとで効いてきます。
情報システム部門と、早めにつながっておく
工場の現場と、情報システムの担当者は、ふだんほとんど接点がありません。
私の場合は、工場と情報システムの担当者のあいだに立って、作っている途中から気軽に相談できる関係を作りました。実際に手を動かして作ったのは工場側の私たちですが、困ったときにすぐ聞ける相手がいたことに、何度も助けられました。
作り終わってから見せると、「知らないところで作られたもの」になります。セキュリティや社内のルールの確認で止まるのも、たいていこのパターンです。途中から相談しておけば、その確認も作りながら進められます。
情報システムの担当者がいない中小の工場なら、相手は取引のあるITの会社や、外部の相談先に置き換えて考えてください。
生成AIで「作る」ハードルはさらに下がった
最近は、生成AIを使えば、プログラミングを専門にしていない人でも業務ツールを作れるようになりました。私も日常的に使っています。
ただし、作れる速さと、現場で使われるようになる速さは別物です。作れる量が増えた分、使われないツールも増えました。
作るハードルが下がったからこそ、「誰が持ち主になるか」「誰の手が空くのか」を先に決める重要さは増しています。現場に定着させる条件は、食品工場のDXが現場に定着しない5つの理由にまとめています。作る前の業務の整理は、食品工場の業務フローの整理のしかたを参考にしてください。
よくある質問
ローコードなら、専門知識がなくても作れますか?
簡単な申請や一覧なら作れます。ただ、データの持ち方や権限の設定を間違えると、あとで直すのに手間がかかります。最初の1本は、詳しい人に相談しながら作るのが安全です。
内製したシステムが止まったら、どうすればよいですか?
作る前に、手作業に戻す手順を決めておいてください。止まっても紙やエクセルで業務が回るなら、慌てずに直せます。
外注した場合、社内で何を準備すればよいですか?
業務の流れを1枚に整理しておくことです。依頼する側が業務を説明できないと、見積もりも仕様もぶれます。これは内製でも外注でも同じです。
作った人が異動したら、どうなりますか?
持ち主を決めていないと、たいてい止まります。作る前に、引き継ぐ先のチームか担当者を決めておいてください。